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仙台地方裁判所 昭和22年(ワ)129号 判決

原告

関本〓平

外一名

被告

宮城県農地委員会

主文

被告が昭和二十二年十月三日別紙目録記載の農地に付、売渡の相手方を庄子褜藏と為した裁決は之を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

請求の趣旨

主文同旨

事実

別紙目録記載の農地は原告家の本家の所有であつたが、今より十数年前訴外小野寺平藏に売渡したものであつた処、原告は昭和二十年二月二十日同訴外人から贈與を受けて所有権を取得したので、当時宮城県知事に対し認可の申請をしたが、同年七月十日の空襲でその関係書類は不明となり、次いで農地の移動が停止された為、移転登記をすることができなかつたのであるが原告は前示贈與を受けた当時、小作人である庄子長藏に対し、前敍の事情を告げて原告が自作するから返還されたいと申入れたところ、同訴外人はこれを承知して当事者合意の上小作契約を解約したから、原告は自ら耕作すべく準備中、同訴外人は昭和二十一年度まで小作せしめられたいと申込んで來たので、原告はこれを承諾したのであつたが、本件農地は原告名義に所有権の移転登記をしていなかつた為、訴外広瀨村農地委員会に依り、不在地主の所有農地として買收されたのである。然るに右委員会は売渡計画を樹立するに当り、前示庄子長藏の子で小作人ではない訴外庄子褜藏を売渡の相手方と定めたので、原告はこれに対し異議の申立をしたところ、同委員会は前記の事情を考慮して、原告に所有権があつたことを認め、昭和二十二年九月十三日売渡の相手方を原告に変更する旨の決定を為したのであつたが、訴外庄子褜藏はこれを不服として、被告に訴願した為、同年十月中被告は訴外庄子褜藏に売渡すべき旨の裁決をしたのである。然れども本件農地の小作人は右褜藏の父長藏であるから、訴外褜藏は売渡の相手方となるべき適格を有しない。之に反し原告は前記の事情から本件農地には関係深く、既に買受申込をもしてゐるのであるから、原告を売渡の相手方と為すべきに拘らず、訴外庄子褜藏を売渡の相手方と為した被告の裁決は違法である。仍つて之が取消を求むる為本訴請求に及んだのであると陳述した。

(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、本件農地が訴外小野寺平藏の所有名義であつたから訴外広瀨村農地委員会が不在地主の所有土地として買收計画を樹て、その買收手続が完了したこと同委員会はこれを訴外庄子長藏の子であるが小作人ではない訴外庄子褜藏に賣渡計画を樹てたところ、原告はこれに異議の申立をしたので同委員会は原告に所有権があることを認め、売渡の相手方を原告に変更することの決定を為した処、訴外庄子褜藏はこれを不服として被告に訴願した結果、被告は昭和二十二年十月中売渡の相手方を訴外庄子褜藏と為すべき旨の裁決をしたこと、本件農地は原告が訴外小野寺平藏からその所有権の移転を受けたものであつたこと等は認めるが、その余の原告主張事実は否認すると陳述とした。

(立証省略)

理由

別紙目録記載の農地が登記簿上は訴外小野寺平藏の所有名義になつていたので、訴外広瀨村農地委員会が不在地主の所有土地として買收計画を樹てた為、結局買收が確定したこと、本件農地に付、右委員会は訴外庄子長藏の子であつて、小作人でない訴外庄子褜藏に売渡すことの売渡計画を樹てたのに対し、原告が異議の申立をしたところ、同委員会は原告に所有権があつたことを認めて、売渡の相手方を原告に変更することに決定したのであつたが、訴外庄子褜藏はこれを不服として被告に訴願した結果、被告は昭和二十二年十月中売渡の相手方を庄子褜藏と定むべき旨裁決したこと、原告が本件農地の所有権を訴外小野寺平藏から讓り受けたものであつたこと(但しその時期に付ては爭がある)の各事実は当事者間に爭がない。

而して成立に爭のない甲第二、三号証、証人小野寺平藏の証言に依り成立を認め得る甲第一号証の各記載に同証人及関本徹の証言、証人庄子浅治の証言の一部、原告本人訊問の結果(第一、二回)を綜合して考えれば、原告は訴外小野寺平藏と親戚関係にあるのであるが、昭和十九年十月原告の長男関本徹が右平藏の娘つねよと結婚したので、別紙目録記載の農地を同訴外人から持参金代りに贈与を受け、同二十年二月二十三日その旨の契約書を受取ると共にその頃本件土地を小作していた訴外庄子長藏に前記事情を告げて、原告が自作するから返地されたいと申入れた処、同訴外人はこれを承諾して返地することになつたこと、その後訴外長藏は約旨に從う返地をしないで、更に一ケ年だけ耕作せしめられたいと懇請し來つたので、原告はそれに応じてその旨の契約書を作成したのであつたこと、訴外庄子長藏は尚その約定期日に返還しなかつたので、原告の子徹は同二十二年三月自ら耕作に着手したところ、広瀨村農地委員会長等の仲介に依り、原告は田打等を為した賃料を受取つて、更に同訴外人に耕作せしめることにしたのであつたが、訴外広瀨村農地委員会は、登記簿上本件土地の所有名義が宮城郡大沢村芋沢字大勝草十番地小野寺平藏となつてゐた為、不在地主の所有土地として買收計画を樹てたので、そのまゝ買收手続が確定するに至つたものであつたこと、被告が訴外庄子褜藏の為した訴願に対し裁決したのは昭和二十三年十月三日であつたこと等を認め得るのであつて、右認定に反する証人庄子褜藏、庄子長藏等の証言は当裁判所の措信しない所であり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。果して然らば、本件農地の買收計画樹立当時に於ける所有者は、原告であることは明らかであるから、訴外小野寺平藏の所有に属するものとして買收計画を樹て、これに基いて為された買收行為は効力を生ずるに由ないものである。從つて原告は本件農地の所有権を失うことはないのみでなく本件農地に付ては耕作者たる庄子長藏は、昭和二十年二月末日頃原告に返地することを承諾してゐる(甲第二号証は四月一日と記載してあるが前叙認定に照して右は返地承諾後作成したものと認められるのであるから、訴外宮城県知事が前示買收行為を自ら取消さない限り被告としては原告の所有権を確保せしめるような措置を講ずべきに拘らず、訴外広瀨村農地委員会が原告に売渡すべき旨の売渡計画を樹立したのに対しこれに反する結果を招來するやうな被告の裁決は違法であるからこれを取消すべきものである。仍つて原告の請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九條を適用し主文の如く判決する。

(目録省略)

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